2005/11/15 朝日新聞 生活 より 切り抜き
大阪府守口市のプロゴルファー永松利朗さん(38)は、独自のサウナトレーニングを実践している。週3日、近所の
サウナで、汗を流しながらストレッチをする。10分体を伸ばし、外に出て10分休憩。これを3回繰り返す。
春先、背中を痛め、主治医には「ゴルフをやめないと完治しない」と言われた。気分転換に出かけたサウナで体を
伸ばすと、驚くほど痛みがなく、数週間で痛み止めの注射もいらなくなった。それだけではない。「夏場の試合、終
盤に疲れて凡ミスをすることもあったが、今年は最後まで集中力を持続できた」と話す。
「確かにサウナには運動能力や病気を防ぐ免疫力を高める効果がある」。体を温める療法を研究している愛知医
科大の伊藤要子・助教授(放射線生物学)はいう。 伊藤助教授が注目しているのがヒート・ショ.ック・プロティン
(HSP)と呼ばれるたんばく質の一種だ。人体の約60兆個の細胞を構成する稜々なたんばく質は、けがや疲労など
の外的ストレスで構造が変わり、本来の働きができなくなる。傷ついたたんばく質を修復するのがHSPの役割だ。
普段から軽めの「熱ストレス」を与えて増やしておくのが、「マイルド加湿療法」の基本だ。
昨年、国士舘大レスリング部の免疫力、運動能力向上も学生らで実験したところ、ミストサウナや遠赤外線装置
を使って体を温めると、腕立て伏せができる回数は2割近く増えた。
HSPは体温が約2度上がった状態が最も作られやすいことから、伊藤助教授は、サウナの後はすぐに水に入ら
ず、タオルをまいて10〜20分間保温するのが効果的とみている。また、入浴2日後にHSPは最も多くなるため、週
末に入れば、週明けには疲れがとれた段階で出勤できるという。
どの種類のサウナがいいのか。 日本サウナ協会(東京都千代田区)の中野意表長(哲は)好みで選んで構わな
い。特長を知ればもっと有効に使える)と話す。
乾式の場合、室内が乾爆するので、のどや肌の弱い人は注意が必要。同じ室内でも上段ほど暑く、温度差は10
度以上になる場合も。ミストは肌の表面に水滴がつくのでわかりにくいが、乾式よりは汗をかきにくい。岩盤浴は温
度が低めで長時間の入浴には適していをが、体を温める以外の効果については未知数な面もあるという。
「汗をかくにはある程度の我慢は必要だが、無理をしすぎるよくない」と注意する。
大阪市中央区のサウナ「ニュージャパン道頓堀店スパプラザ」では、約90度の乾式サウナのストーブに水をか
け、一時的に湿度を高める「ロウリユ」(フィンランド語で「熱を肌で感じる」の意味)が人気だ。体感温度が上がって
一気に汗がふき出るという。
協会が専門知識のある人を認定する「サウナ管理士」の資格を持つ常磐理・チーフマネージャー(31)は「HSPを増
やす入浴法以外にも、サウナと水風呂に交互に入って交感神経を刺激する『交代浴』など入り方はいろいろ。目的
にわせて工夫を」と話す。
ただし、いずれの場合もアルールを飲んだ状態での入浴は厳禁。体が温まり血行が良くなると酔いが一気に回っ
てしまり、寝込んで脱水症状になする危険性があるからだ。
3ヶ条
一、疲れとれるのは2日後
二、無理しない程度に我慢
三、お酒を飲んで入らない
PART2 サウナで心不全改善
「温熱療法」を心不全の治療に利用する病院が増えてきた。「心臓に負担がかかって良くない」と、心臓病の人は
避けるように言われてきた入浴やサウナ浴も、医師の指導の下で注意して使えば、心機能が改善し、むくみなどの
症状も消えるという。運動寮法も保険適用され、心不全治寮の選択肢が広がる中で、温熱療法は「運動が無理な
高齢者や人工心臓をつけた人もできる」 「コストが低い」と注目されている。
医師の指導欠かさずに
鹿児島市内の主婦(73)は週に2回、鹿児島大学病院に通院するのを楽しみにしている。サウナに入れるからだ。
拡張型心筋症と診断されて1年になる。心筋が収縮する力が弱まり、心臓内の空間が広がる病気で、胸の痛み
を感じて病院を受診し、わかった。
2カ月ほど薬を飲んだのち、その病院の医師が同大学病院の「サウナ療法」を紹介してくれた。
「心臓病なのにサウナなんて大丈夫? 不安を感じたものの、入院して薬を続けながら週に5回、鄭忠和教授の
言う通りにサウナに入った。
2ヵ月後。64ミリに拡大していた心室の内径が57ミリに縮小。心室が分泌するホルモンで、心臓の働きがどの程
度下がっているかを知る目安となる「BNP」の値も356から60.2と、同大学病院が正常とする20に近づき、心臓
のポンプ機能も改善した。
以来、サウナ療法は休んだことが無い。
「薬だけで治療していた頃と違って胸が苦しくなることも無いし、手足のむくみも消えた。それに、サウナに入った日
は気分が良いんです」
温度ぬるめに
鹿児島大学病院がサウナ療法を始めて17年。今は毎日40〜50人がサウナ浴をするようになった。
『どうしても風呂につかりたい』という患者さんがいたのがきっかけでした」と鄭教授。
入浴は心臓に負担がかかるので避けるべきだ___それが常識だった。おそるおそる、ぬるめの湯船に体を横
たえてもらった。何度か入るうち、検査値が心機能の改善を示した。「治療に使える」。工夫を重ね、サウナの利用
を始めた。
ふつうのサウナだと、温度は90度ほど。湿度も高く、負担が大きすぎる。遠赤外線を使い、温度を60度に。天井
と床で温度差がでないように調整した。
15分間サウナに入る。
「ぬるめ」に感じても体がポカポカしてくる。出てすぐにタオルケットで全身をくるみ、30分間、横になり安静にする。
心臓の負担減
心不全は心臓のポンプ機能が弱まって血液を十分に送り出せない状態だ。それでも脳や肺など重要な臓器には十
分な血液が要る。交感神経をはじめ様々な指令が出て、手足の血管を収縮させ、その分、脳などへの血液を確保
したり、心拍数を増やしたりするほか、心臓を拡大して1回の拍動で送り出す血液量を増やそうとする。
少しの間なら大丈夫でも、長く続くと、さらに心臓が弱まって脳などに血液を送れなくなる。
ところが、サウナに入ると、手足の動脈が開くので血液が流れやすくなり心臓の負担が軽くなる。静脈も広がり、
心臓に戻ってくる血液の圧力が減る。それで心不全が改善される___鄭教授らは、そう考えている。
動脈硬化が進んで足の血管が詰まり、痛みや壊疽などを起こす閉塞性動脈硬化症の患者にも、サウナ浴を始め
ている。
大分県別府市の九州大学病院別府先進医療センターの尾山純一助手は昨年、別府温泉の湯を使った温熱療法
の臨床研究を始めた。
40度のお湯に10分間、へそまでつかってから全身をタオルにくるんで1時間保温する。
50〜80代の患者15人を対象に2週間続けたところ、ほとんどの人で心機能がよくなり、息切れなどの症状も改善
した。何より、温泉地ならではの試みが喜ばれている。
「足湯」で実験
症状が重く補助人工心臓をつけるなどしている患者は温泉やサウナに入るのは難しい。大阪府吹田市の国立循環
器病センターは近く、そんな人たちに「足湯」を始める。
使うのは市販のスチーム式足浴装置。装置ごとひざまでタオルでくるんで15分間蒸気を当て、そのまま30分間保
温する。患者を二つのグループに分け、当てる蒸気の温度を、1グループは室温の25度程度に、別のグループは41
度に設定。それぞれ2週間続けて心機能を比べる計画だ。
健康な人で試したところ、交感神経が活性化すると分泌量が増えるノルアドレナリンなどの値が減少。
「リラックス効果も十分です」と駒村和雄・心臓動態研究室長。
うまく利用すると効果が期待できる温熱療法だが、安易に自己流で行うのは危険だ。心不全に加えて糖尿病や
高血圧などを患ってい‥る人は絶対に避けなければいけない。お湯の温度が43度以上だと健康な人でも痛みを感
じる。駒村室長は「気持ちいい温度に設定することが大事です」と話す。
鄭教授は言う。
「安全で低コストでできる治療ですが、あくまでも治療であることを忘れないでほしい。医師の管理のもとで実施す
ること、が大前提です」
以上、2006年12月18日 朝日新聞朝刊より
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